ものがたり

こびとがいました。
こびとには大事なものがありました。
それはとても脆弱に思えるもので、他人に触れられたらすぐに傷ついたり壊れてしまいそうに思えました。

こびとは考えました。
考えたこびとは他人が触れられないように周りに柵を巡らせました。
これで簡単には他人が触れられないだろう。こびとは少し安心しました。
でも、すぐに不安になりました。すぐ壊れてしまうものだと分かったら誰かが面白がって傷つけてしまうかもしれない。

こびとは考えました。
考えたこびとは大事なものをすぐに壊れてしまわないように見せかけることにしました。くるんだりとげをつけたり、いろいろやってとうとう元の姿が分からなくなるぐらいにへんてこなものになりました。ちょっとやそっとでは壊れないようにも見えます。
ようやくこびとは安心しました。


ここまで長い時間がかかりましたが、こびとは満足でした。

こびとは考えました。
へんてこになったものはちょっとほかにないように思えたので、変わったものを持っていると他人に言い触らしました。
こびとはちょっと人気になりました。とても良い気分でした。

こびとも大事なものが脆弱なままであることを次第に忘れていきました。
そんなこと人気の前にはどうでもよかったのです。

こびとは考えました。
考えたこびとはへんてこなものをもっといっそうへんてこなものにしました。そうすればもっと人気になると思ったのです。
こびとの周りには人が集まりました。

そのうち強い風が吹いてきました。大きな波もやってきました。激しい雨も降ってきました。こびとはどうすることも出来ませんでした。ただただへんてこになったものが、その中にある大事なものが壊れないことを祈るばかりです。

やがて風や雨は去りました。
そこには変わり果てたへんてこなものがありました。
中にある大事なものは大丈夫だろうか?
でも、こびとにはそれを確かめるすべがありませんでした。なぜなら大事なものをへんてこなもので守っていくうちにもとの姿がすっかり分らなくなったからです。
こびとは人に尋ねました。大事なものがどんな姿だったか、知っている人もいくらかいたはずだからです。
けれど、人に尋ねるたび、その通りのように思えるし、全く違うようにも思えたからです。
こびとは不安になりました。とても大きな不安です。
ずっとこのまま分らないままだったら、壊れたままだったら。考えるほどに怖くなりました。

こびとは怖いことを忘れるために色んなことをしましたが、でもやっぱり不安になって戻ってくるのです。
誰かにかわりに守ってもらうことも考えました。でもそんな面倒を引き受けてくれる人なんていません。こびとはどうすることも出来ずにすっかり肩を落としました。

長い時間が経っていました。

ようやくこびとは気がつきました。
大事なものを守るためには、大事なものそれ自体が強くないといけないのではないかと。
気がついたこびとは考えました。
たくさんたくさん考えました。
けれど、答えは見つかりません。ちっとも分らないのです。
柵を巡らして、へんてこなもので飾る以外にのことを全くしていなかったのです。
こびとは落ち込みました。
もうずっとそんな調子で、いつも大事なものの周りをうろうろしました。

さあ、このさきこびとはどうなるのでしょう?大事なものを守ることが出来るのでしょうか?

それは、これから先のものがたり。

Monthly 2010.06

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